Space & Art / 空間とアート
VOLUME 01 / PART II / CHAPTER 21

なぜルネサンスは古代建築を再読し、透視図法と結び付けたか

古代劇場の形式を学び直した建築と、遠くへ続くように見える舞台の街路を、同じ施設の別の制作判断として読む。

イタリア・ヴィチェンツァ/テアトロ・オリンピコ、1580年代実物・記録を見比べる出典 8 件
テアトロ・オリンピコ・舞台全景
Didier Descouens / Wikimedia Commons · テアトロ・オリンピコ:1580年代/撮影:2016年 · CC BY-SA 4.0 図版情報
Didier Descouens / Wikimedia Commons · 元資料
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一つの建物に二つの時間を見つける

ヴィチェンツァのテアトロ・オリンピコでは、観客席が半円状に舞台へ向かい、舞台正面には凱旋門を思わせる建築的な面が立つ。Palladio Museumの実測図集には全体平面、観客席下の平面、舞台正面と断面が分けて載る。全景写真は古代劇場を参照する観客席と、奥行きを錯覚させる街路景の両方を一枚に収めるが、それらを同じ作者の一度の設計としてまとめない。パッラーディオは建築を設計し、死後、スカモッツィが舞台の街路を構成した。建築と舞台装置の接点を歴史的な制作分担ごと読む。[1][2]

実測図集の図面には後世の調査という制作時点がある。16世紀の設計原図と呼ばない。現在の舞台写真と比較するときは、図面が断面なのか平面なのかを示し、線の長さを画像表示上の長さとして受け取らない。[1][2]

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1776年平面は何を測る資料か

1776年の平面図を現況写真の隣に置くと、観客席の半円、舞台正面の厚み、街路景が占める奥の短さを確かめられる。ただしこれは建設同時代の原設計図ではなく、完成後二世紀近くを経た測図・刊行物である。Palladio Museumの図面群はさらに断面や観客席下の平面を分けて示す。線で読める実際の占有面積と、写真で見える遠近の印象を一つにしない。後年の図が原状態をどこまで示すかは、改修・保存の記録と合わせて判断する。[1]

図面・記録テアトロ・オリンピコ・1776年平面図建物:1580年代/図版制作:1776年1776年刊の後世の図。観客席、舞台正面、短い街路景の実際の占有範囲を読む。Ottavio Bertotti Scamozzi / Wikimedia Commons · Public domain · 元資料[4]
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平面と写真を往復する

舞台中央の入口から遠くへ続くように見える街路は、写真では深い都市に見える。しかし平面と断面を合わせると、建物内の限られた奥行きで幅と高さを縮める構成が働くことが分かる。透視図法は古代から完成形で借りてきた規則ではなく、15〜16世紀に理論と制作が発展した視覚操作である。ここでは一点から見た像の効果を、実際に歩ける都市の奥行きと取り違えない。観客席の位置が変われば効果がどう変わるかは、固定写真では十分に確かめられず、観察位置を変えた記録や模型が要る。[1]

同一対象舞台中央の入口テアトロ・オリンピコ:1580年代/撮影:2016年街路景が舞台正面の開口の奥に置かれる関係を見る。Didier Descouens / Wikimedia Commons · CC BY-SA 4.0 · 元資料[5]

Palladio Museumの図面群は、舞台正面だけでなく観客席の下、断面、中央街路の見通しを分けて提示する。写真では遠くへ続く街路が一瞬で見えるが、平面を開くとその景色が狭い建物の奥に収まることが分かる。ここで演習として、写真の中の「遠い建物」に見える一箇所と、図面では短い距離で終わる箇所を対応させる。遠近法は見る位置を前提とするため、客席の端から同じ効果が生じるとは限らない。観客席の段の写真は視点が複数あることを示すが、歴史上の座席割や上演時の照明までは示さない。舞台装置を絵のように解釈する時も、足で歩ける奥行きと、目に生じる奥行きを分ける。[1]

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制作の分担を舞台正面で読む

パッラーディオは古代劇場の調査と建築理論を自分の設計へ移したが、劇場の完成前に亡くなった。舞台奥の透視街路はスカモッツィが引き継いで組み立てた。写真の正面アーチを建物の入口と見たあと、その奥に縮小していく街路を探す。建築的な正面と舞台装置は同時に見えるが、役割も作者も違う。観客席の段の写真は見る側の幅を示し、街路の効果が一つの完全な視点だけの静止画像ではないことを考えさせる。実際の座席割と舞台上演の明るさは別の同時代記録が要る。[1]

同一対象観客席の段テアトロ・オリンピコ:1580年代/撮影:2016年見る側の位置。遠近法の効果は視点と切り離せない。Didier Descouens / Wikimedia Commons · CC BY-SA 4.0 · 元資料[6]
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「古代の再生」をどこまで言えるか

古代建築の柱式や劇場の形式への関心があっても、16世紀の室内劇場は古代の遺構そのものではない。閉じた建物、常設の街路景、社会的な催しの場という条件が加わる。彫刻や建築正面の層は、舞台に立つ身体を理想化された都市の像の前へ置く。写真から柱・彫刻・客席の相互位置を示せても、1585年の初演で誰がどこに座り何を見たかは資料を別に要する。古代の「比例」がルネサンスを単独で生んだという因果も、依頼主やアカデミー、制作技術の証拠なしには言えない。[1][2]

観客席の写真を主舞台の写真と並べると、透視図法は図面の上だけの「正しい線」ではなく、客がどこから見るかによって成り立つ装置だと分かる。舞台の街路に人が実際に入って遠くまで歩くわけではない。見える都市と使える床の差を隠すと、設計者の仕事を単に「だまし絵」と呼ぶことになる。建物を作ったパッラーディオと、舞台の奥を完成させたスカモッツィの分担を明記すれば、古代への憧れと16世紀の制作技術が重なった工程が見える。施設の別室オデオンを比較に置く場合も、舞台の奥側だと思わせないよう建物内の別用途と表示する。写真で言えるのは視覚効果と物の位置、上演の社会史は別資料に委ねる。[1][2]

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絵と建築の境界を見分ける

舞台奥の街路は、平面上の構造物でありながら、正面からは描かれた遠景のように働く。ここで建築、彫刻、絵画的な空間表現を一本の序列にしない。舞台の近景と最奥を別々に見た写真、実測図の平面・断面を組にして、実寸と見かけの距離を区別する。今日の保存された舞台を見ても、過去の照明条件や観客の受け止めを直接知ることはできない。この区別が、室内写真を見て広く感じたという印象から、何がその広がりを生んだかを分解する練習になる。[1][2]

同一対象施設内の別室オデオンテアトロ・オリンピコ:1580年代/撮影:2016年同じ複合施設内の別用途の室。舞台の直接の奥行きではない。Didier Descouens / Wikimedia Commons · CC BY-SA 4.0 · 元資料[7]

古代劇場を参照したことは、古代を複製したことではない。パッラーディオの建築が置く柱式や半円の観客席と、スカモッツィの街路景は、16世紀の依頼と技術、演劇の制度の中で結びついた。図版の別室オデオンを同じ街路景の側面と誤認しないよう、施設内の別用途であることを表示する。古代の建築理論を使ったという一般論を言うなら、参照した版や設計図を確認する必要がある。近代の観光写真から「当時は誰もが同じ遠近法の効果を理解した」とも言えない。建築、舞台装置、観客の目という三者が同じ室で働くことを確認しつつ、それぞれを支える史料は分ける。[1][2]

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18世紀の版画と今の撮影

約1750年の舞台正面版画と今日の写真を比較する。版画はどの部位を見せたいかを作図者が整理した表象で、歪みのない実測図とは違う。写真は奥行きの錯覚を強めるが、レンズ位置と画角が決まっている。両者が似ていても「1585年の観客がこの通り見た」とは言えない。図面は広がりの物理的な限界、版画は歴史上の見せ方、写真は保存された現況をそれぞれ示す。三資料の一致と不一致を探すことが、古代形式の再読と新しい透視装置を区別する手掛かりとなる。[1][2]

図面・記録テアトロ・オリンピコ・18世紀の正面版画建物:1580年代/版画制作:約1750年1750年頃の舞台正面の版画。現況写真と同じ瞬間の写真ではない。Unknown artistUnknown artist / Wikimedia Commons · Public domain · 元資料[8]

舞台街路の『遠さ』を調べる際は、写真の消失点へ定規で線を引く前に、平面の舞台正面と最奥の位置を見つける。1776年平面と約1750年版画はともに完成後の資料なので、1585年の原図でも初演写真でもない。図版の制作時点を記しておけば、古代劇場への参照、16世紀の建設、18世紀の記録、今の保存の四層が分かれる。Palladio Museumの断面は公式サイトにあり、ここに示す平面だけで高さ方向まで断定しない。[1][2]

テアトロの観客席段と舞台正面は同一施設の対向する側にある。別室オデオンは複合施設の一部だが、街路景の奥にはない。ここでは観客側の視点、舞台の正面、舞台裏の短い占有範囲を順に見比べる。これは建物内を歩く順路ではない。版画の遠近表現と平面に記された建物の奥行きを分けて読む。[1][2]

READING PRACTICE

一枚に戻って考える

舞台写真の「見かけの奥行き」と実際の建物内の奥行きをどう区別するか。図面に何を尋ねるか。

照合の手がかり

平面・断面で街路景の実寸、縮小、観客位置を確かめる。写真だけで奥行き寸法を推定しない。

言える範囲

Palladio Museumの断面図は公式サイトで確認できる。ここに示す平面図だけでは、高さ方向の寸法や構造を検証できない。

SOURCE REGISTER

出典・図版

  1. [1] Palladio Museum, Teatro Olimpico drawings
    https://mediateca.palladiomuseum.org/palladio/oggetto_immagini.php?id=5
  2. [2] UNESCO, City of Vicenza and Palladian Villas
    https://whc.unesco.org/en/list/712/
  3. [3] Didier Descouens / Wikimedia Commons
    https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Interior_of_Teatro_Olimpico_%28Vicenza%29_scena_.jpg
  4. [4] Ottavio Bertotti Scamozzi / Wikimedia Commons
    https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Teatro_Olimpico_pianta_Bertotti_Scamozzi_1776.jpg
  5. [5] Didier Descouens / Wikimedia Commons
    https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Interior_of_Teatro_Olimpico_%28Vicenza%29-_Scaenae_frons_close-up_-_La_porta_regia.jpg
  6. [6] Didier Descouens / Wikimedia Commons
    https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Interior_of_Teatro_Olimpico_%28Vicenza%29_-_Gradinata.jpg
  7. [7] Didier Descouens / Wikimedia Commons
    https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Interior_of_Teatro_Olimpico_%28Vicenza%29-_L%27Odeon.jpg
  8. [8] Unknown artistUnknown artist / Wikimedia Commons
    https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Print,_Prospetto_Interno_del_Teatro_Olimpico_Nella_Citta_di_Vincenza_(View_of_the_Stage_of_the_Teatro_Olimpico_at_Vicenza),_ca._1750_(CH_18433643).jpg