なぜシンガポールのショップハウスは、住む・売る・歩くを重ねたか
街路に面した一棟を、店先だけでなく屋根付き歩道、上階、奥の採光へつながる建物として読む。

Wikimedia Commons / Philip Nalangan · 2006年撮影 · CC BY 4.0 図版情報
通りと店の間に歩く場所
シンガポール都市再開発庁URAはショップハウス正面を、上階、柱、five-foot way、木窓、屋根、一階の店先または住居正面に分けて説明する。five-foot wayは上階が歩道へ張り出して作る屋根付きの歩行空間で、強い日差しや雨から歩行者を守る。URAは初期の街路計画で設置が義務づけられたと記す。これは個々の店主の美的趣味だけで生まれた形ではなく、通りを連続して歩けるようにする都市の規則と結びつく。図版では柱の内側を人が歩く幅、店の開口がどこから見えるか、上階の窓と歩行の距離を合わせて読む。[1]
five-foot wayは個別のファサードについた飾りではなく、隣棟へ連続する歩行の場所である。URAの保存解説は街路に沿った屋根付き通路を構成要素とし、柱の位置、床、上階との関係に注意を向ける。雨や日射を避けて歩く人にとって、店先の戸板や商品は通路と接する面になる。写真で色鮮やかな正面を見るだけでは、その歩く幅と柱の陰影は分からない。通路内からの写真へ移ると、街路、庇下、店内の三つの帯が同じ幅の敷地に重なると分かる。ただし現代の屋外席や看板は建設当初の利用形態とは限らない。現行の保存規定は、歴史的な元の形を知る手掛かりであると同時に、現在の改修を導く制度でもある。[1]
類型断面と実際の街路写真
URAの解説に基づく独自模式図には、街路側のfive-foot way、上階、airwell、後庭を一つの長い断面風に置いた。これは典型的な要素を示す教育図であり、掲載した色鮮やかなショップハウスのどれか一軒を実測した図ではない。外観写真では街路沿いに連続する柱と屋根の影を確認し、歩行目線の写真では屋根の下を通る身体の尺度を確認する。模式図で奥にある採光・換気の構成を知っても、その写真の建物に同じ位置・寸法のairwellがあるとは言い切らない。URAはairwellが屋根の間に置かれ、内側へ光と風を取り込むと説明する。現実の一棟を論じる際は固有の平面と現地確認が必要である。[1]
図版六点のうち模式図は個別建物の実測ではない。写真五点にも、正面の色彩、角地の外観、five-foot wayの歩行目線という違いがある。正面写真に上階が写っても、現在その上に誰が住むかは見えない。URAの保存解説が示す類型上の上階・airwell・後庭を各写真の奥に勝手に描き足さず、一般的な構成として区別する。個別物件の平面と室内が得られれば模式図のどこが当てはまり、どこが違うかを検証できる。[1]
商いと住まいの縦横
URAは伝統的なショップハウスの一階を商業、上階を住居とする使い方を説明し、一階正面には取り外し可能な木の戸板、折りたたみ戸、ガラスの展示ケースなど複数の形式があると記す。正面が住宅の場合は木の扉と窓によって街路への開き方が変わる。ファサードが同じ幅の列に見えても、各棟の店先・住居正面・改修後の用途は異なる。奥のairwellは採光と換気を考える上で重要だが、正面写真だけではどの位置にあるか分からない。平面・断面が確保できない棟に、一般の模式図をその建物固有の実測図として貼らない。[1]
URAのショップハウス解説が示す類型は、街路に向けた正面、上下に異なる用途、奥の採光・通風の場を関係づける。写真に写る柱間の通路を観察したら、その奥には見えないairwellがある可能性を資料から知ることができる。しかし一軒ごとの平面図なしに、この写真の家のairwellの位置と寸法を確定しない。法的な保存地区の範囲も、東南アジア全体の商業建築の範囲ではない。正面の色や装飾は時期によって改修されるので、街路景観の華やかさだけを成立原因にしない。歩行者を通す規則と商人の使い方が重なったことを、分けて説明する。[1]
連続するファサードの裏の敷地
ショップハウスは街路に面して連続した正面をつくるが、URAは各棟を境界壁を共有する敷地単位として説明する。写真の列を一つの長い建物と捉えると、個々の店先、上階への階段、奥の空地の違いを見失う。模式図で前後を分解し、正面写真で横方向の連続を確かめる。二つの方向を重ねることで、住む・売る・歩くが同じ平面の三つの横帯だけではなく、縦と奥行きの組み合わせで成り立つと分かる。URAの資料は19世紀半ばから20世紀半ばまでの複数の様式を挙げており、装飾が似ていなくても類型の共有がありうる。逆に色彩や意匠が似た二棟でも、現在の用途は異なるかもしれない。見た目だけから居住者・商い・保存時期を決めない。[1]
保存と転用も一時点ではない
URAのガイドはfive-foot wayの元の高さ、柱の大きさ、床の材料などを保存上の検討項目とする。現在のCC写真にカフェや新しい看板が見えても、それは創建時の店の姿ではない。街路に並ぶ色彩豊かな正面を一枚の景観として見たあと、別写真で庇の下から店先を見れば、建物が歩行者の身体に与える尺度が変わることが分かる。色の好みだけで「ショップハウスらしさ」を説明せず、連続歩道と上下の用途、規則と移民の商いの歴史を分けて置く。東南アジア全体の店舗をシンガポールの保存制度で代表させない。[1]
掲載六図は同じ一棟の全景と室内ではなく、別々の棟・街区の写真を含む。Koon Seng Roadの列を見て、画面上の連続をすべて単一施主の設計としない。別のファサード写真で窓、柱頭、色を比べても、奥のairwellや上階の居住の配置は見えない。類型の解説と個別の写真をつなぐときは、「ショップハウスに一般的に見られる構成」と「この写真に現に写るもの」の二列で記す。各棟の用途が更新される場合、歴史的な住商混合の説明だけで現在の使用を言い切れない。建物の正面が商売を支える面、歩行者を守る都市の面、上階の生活の面であるという複数性を、平面が未確認のまま一軒の架空の復元図にせず示す。[1]
保存制度が現在の形を選ぶ
URAの保存ガイドは屋根、境界壁、木造の床や階段、開口をどのように扱うかの項目を示す。現在の写真に見える庇や戸の形は、建設時のまま残った部分と保存・転用で選び直された部分が混じりうる。だから「植民地時代のショップハウスがそのまま残る」と一括しない。歩行者のための通路を維持する制度と、店が現在どのように開くかは別の時間の判断である。制作チームがこの類型を学ぶ意味は、装飾的な正面を模倣することではなく、街路の公共性と建物内部の生活が敷地の断面でどう重なるかを見ることにある。室内写真と個別平面は未収載なので、上階の住まいを具体的に再現した絵として模式図を扱わない。[1]
図版から出ない結論
通りの全景から奥の居住、吹き抜け、実際の温熱性能までは見えない。建物固有の図面と改修記録なしに一棟の内部を復元しない。植民地期の規則があるからといって、住む人や商う人の選択が消えたとも言えない。[1]
一枚に戻って考える
街路全景と庇の下の写真を見て、歩行者にとっての店先の見え方がどう変わるか述べよ。奥の居住について写真から何が言えないか。
照合の手がかり
庇の下では柱間と店の入口が身体の近くに現れる。奥のairwellや個別の間取りは正面写真では確認できない。
考える手がかり:庇の下では柱間と店の入口が身体の近くに現れる。奥のairwellや個別の間取りは正面写真では確認できない。
URAの類型断面は原資料から独自に模式化し、個別写真の一棟の平面として示さない。居住室・売場・airwellの実測図および室内写真は未確保。写真だけで現在の上階の居住用途は証明できない。
出典・図版
- [1] Urban Redevelopment Authority — Shophouse conservation guide
https://www.ura.gov.sg/conservation/conservation-resources/understanding-the-shophouse/ - [2] Wikimedia Commons / Philip Nalangan
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Shophouse_Singapore_02.jpg - [3] Wikimedia Commons / Sergey
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:A_five_foot_way_in_Singapore.jpg - [4] Wikimedia Commons / Philip Nalangan
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Shophouse_Singapore_07.jpg - [5] Wikimedia Commons / Basile Morin
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Colorful_shophouses_in_Koon_Seng_Road,_Singapore.jpg - [6] Philip Nalangan / Wikimedia Commons
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Shophouse_Singapore_01.jpg