Space & Art / 空間とアート
VOLUME 01 / PART V / CHAPTER 56

同じ作品は、置かれる場所でどう違って見えるか

同じ絵画が暖炉上に掛かるロンドンの私邸写真と、ワシントンの美術館写真をまず見比べる。絵だけでなく部屋も移動し、食卓と陶器の配置、見る人の立場が変わった。どこまで写真から言えるかを、作品個票と移動記録で確かめる。

Whistler《陶磁の国の姫君》/ロンドン・Leyland邸(1875–1892)、Freer美術館(1923年以降)。Peacock Roomは1906–1919年にFreerのデトロイト邸にも設置された。実物・記録を見比べる出典 14 件
Leyland邸のPeacock Room
撮影者未詳/Linda Merrill, The Peacock Room (1998) 再録 · 邸宅で撮影/1892年以前・正確な撮影年未詳 · Public Domain 図版情報
撮影者未詳/Linda Merrill, The Peacock Room (1998) 再録 · 元資料
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私邸の食卓と美術館の展示室を並べる

19世紀末の写真では、暖炉上の《The Princess from the Land of Porcelain》の手前に食卓、椅子、陶器がある。2023年のFreer美術館の広角写真でも同じ絵は暖炉上にある。まず肖像画の位置をそろえて二つの場所を読む。[5][3][2]

同一対象Freer美術館のPeacock Room美術館で撮影/2023年2023年の館内を入口側から見渡す。左の暖炉上に同じ《Princess》があり、床中央に食卓はない。パノラマは横方向の寸法を歪める。Votpuske · CC BY-SA 4.0 · 元資料[10]

掲載したロンドンの写真はCommons個票がLeyland邸49 Prince’s Gateでの設置状態として示し、1890年頃と分類する。1921年刊『The Whistler Journal』p.100には同室を別の撮影位置から写した写真があり、図版目録は邸内の原位置で撮ったと明記する。両図を同一カットとはしない。掲載主図の原撮影日は確定していない。2023年の写真は移設後の美術館で撮られたパノラマで、横方向の距離が歪む。食卓と椅子がなく、床中央を歩く・立ち止まる場として見せる点は比較できるが、二枚から照度や室寸法を数値化できない。異なる写真技術と画角を、空間の変化そのものと混同しない。[5][3][2]

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絵は部屋より先に生まれた

Whistlerの絵は1863–65年の油彩で、1865年のパリ・サロンにも出された。Leylandが1870年代初めに入手し、1875年に新しい家の食堂の暖炉上へ掛けた。絵はPeacock Roomのために描かれた注文画ではない。単独の作品画像で、人物の縦長の姿、屏風と扇、床の模様を確認してから、室内写真に戻る。小さく写った肖像を別作品と取り違えないため、Smithsonianの個体番号F1903.91a–bを照合する。[1][2][4]

同一対象《The Princess from the Land of Porcelain》作品/1863–1865年絵画そのものの画像。Smithsonian個体番号F1903.91a–b。どこに掛かったかを示す室内実景ではない。James McNeill Whistler/Freer Gallery of Art · Public Domain · 元資料[11]

設計者Thomas Jeckyllは陶器を置く棚と室の構成を考え、Whistlerは1876–77年に青と金の孔雀模様で壁・天井・戸を変えた。館の記録では、絵との色調の調和が装飾を進めた動機の一つだった。同じ絵を飾る位置が先にあって室内がそれに応じた、という順序が重要である。ただし白黒の邸内写真から当時の青と金の正確な色、自然光の入り方までは復元できない。[1][2][4]

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住宅では誰が、何のために見たか

私邸の写真には食事のために整えられた長卓と多くの椅子がある。棚はLeylandが集めた中国の青白磁を見せる場所でもあった。絵は一枚だけ壁に孤立せず、陶器、金色の棚、食卓の視線の先に置かれている。椅子に座る人と入口から来る人では絵への距離が異なるはずだが、撮影者の立った一点から各席の実際の視界は分からない。[3][5]

この写真は住人が毎日どう食事したかを直接記録していない。卓上は撮影のために整えられた可能性があり、使用人の作業や夜の照明も写らない。私室だったから必ず親密に見られた、あるいは美術館だから必ず遠くなる、と一般化せず、写真に現れる家具と人のいない画面を分けて扱う。絵の位置が同じでも、何を周囲に置き、何の行為が許されるかで鑑賞の条件は変わる。[3][5]

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1892年には絵と部屋が別々になった

Leylandの死後、絵は1892年の売立てで部屋から離れた。Smithsonianの絵の来歴はAlexander Reid、William Burrellを経てFreerが1903年に購入したと記す。FreerがPeacock Room自体を買ったのは1904年で、部屋と絵の取得は同時ではない。1904年刊Obachのカタログは、Leyland邸から取り外した部屋をロンドンの画廊で展示したと標題で明示する。掲載した孔雀壁面の印刷図は装飾の記録であり、この一頁から写真の元撮影場所・日時を確定しない。[1][3][4][6]

別個体・対照1904年カタログの孔雀壁面刊行/1904年・原写真撮影日未詳ロンドンのObach画廊が部屋を展示した際の刊行物に載る壁面写真。写真の元撮影場所と日時はこの一頁から確定できない。暖炉上の《Princess》の写真とは別の壁を示す。C. J. Holmes/Obach & Co.(刊行、撮影者未詳) · Public Domain · 元資料[12]

1904年にはFreerが絵をボストンのWhistler追悼展へ貸し出した。部屋はその年に海を渡り、1906年にデトロイトのFreer邸に設置された。絵は再び暖炉上に掛けられたが、「1877年から現在まで同じ部屋にあり続けた」という説明は誤りである。移動は作品、部屋、陶器で別々の年表を持つ。部屋の旧所有者や展示の機能が変わるとき、同じ場所に見える暖炉上の絵も別の制度の下に置かれる。[1][3][4][6]

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Freer邸を美術館がどう語り直したか

FreerはデトロイトでLeylandと同じ青白磁だけを並べず、シリア、イラン、朝鮮、中国、日本などから集めた異なる釉色の陶器を棚に置いた。美術館が2011年に公開した展示は、1908年頃のFreer邸の配置を史料に基づいて再構成したものだ。ここに載せるカラー写真は2011年に美術館内で撮られ、2014年に館が公開した画像であり、1908年の私邸写真そのものではない。写真に見える灰・緑・褐色の器と、ロンドン写真の青白磁の密度を比べる。[7][8][2]

同一対象2011年のFreer美術館展示美術館で撮影/2011年1908年頃のFreer邸の陶器配置を美術館が再構成した室。これは2011年撮影・2014年公開の美術館写真で、1908年の私邸実景ではない。Freer Gallery of Art/Arthur M. Sackler Gallery(撮影: Neil Greentree) · CC BY-SA 2.0 · 元資料[13]
同一対象孔雀壁面の近景美術館で撮影/2023年2023年の美術館で撮られた金色の孔雀壁面。色と筆触は近くで見えるが、現況を1877年当時の表面と同一視しない。Votpuske · CC BY-SA 4.0 · 元資料[14]

壁の金色の孔雀は、絵の横に置かれた陶器との関係で見え方が変わる。2023年の細部写真では筆致と金色の形を近くから読めるが、それは現代の撮影光と保存状態の記録でもある。1940年代、1990年代初め、2022年に保存処置が重ねられたことを館は公表している。現況の色面をそのまま1877年の表面と呼ばず、部屋自体の履歴を絵の履歴と並べる。[7][8][2]

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美術館に置くことは、見方を一つに固定しない

Peacock RoomはFreerの死後ワシントンへ移り、1923年の開館から公開された。家具のない床、来館者の進路、棚の展示、解説の存在によって、元の食堂とは異なる経験が組まれる。しかし美術館内でも器の展示は変化する。館の企画は2011年以降にFreerの陶器配置を参照し、2019年には棚を空けて壁面を見せ、2025年から青白磁を再び扱う。各年の設置を「原型」とひとまとめにしない。[3][4][2]

2016年には《Princess》がPeacock Roomを離れ、Sacklerで開催された『The Lost Symphony』展に出たと館は記す。これは別の美術館展示室への移動を示す一次記録だが、本章にはその展示室に絵が掛かった実景写真がない。単独作品画像を2016年の設置写真と呼ばない。絵が部屋から離れると、絵自体の縦長の構図を近くで読む機会が生まれる一方、暖炉、孔雀、陶器との関係は失われる。この違いは館の記事で立てられる問いであり、写真にない観客の感想を代弁しない。[3][4][2]

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一枚を置く判断へ持ち帰る

同じ絵は、私邸の食卓の奥に置かれた時と美術館の歩行空間に置かれた時で、周囲の物と見る行為が異なる。ここから得るのは「暖炉上が正しい」などの配置法ではなく、作品の個体、設置時点、壁と物の関係、見る人の行為を分けて確かめる手順である。まず作品を同定し、次に同じ室のどの時点かを確かめる。室を移した時は建築そのものの来歴も問う。写真に写らない照度、視距離、滞留時間は測定か現場記録が必要になる。[5][1][3]

この章の写真が直接示すのは、1892年以前の邸宅内と2011年・2023年の美術館内での物の配置である。邸内写真の厳密な撮影年と撮影者は未確定で、2023年のパノラマは幅を歪める。1904年の印刷図は展覧会カタログの一頁であり、デトロイト邸1908年の実景ではない。資料の間にある空白を埋める推測を結論にせず、別の場所へ絵を置くときはその場所の実測と利用者の経験から判断を更新する。[5][1][3]

私邸像と美術館像で暖炉上の絵は近い高さに見えても、座って食べる人と立って巡る人では視線の起点が異なる。原写真とパノラマの遠近法も違うため、写真上の絵の大きさを物理的な設置高の差と読まない。作品、室、撮影法という三層を分けて比較する。[5][1][3]

READING PRACTICE

一枚に戻って考える

私邸写真と2023年の美術館写真で、同じ絵を示す根拠を挙げ、暖炉・食卓/床中央・陶器・見る位置について確実に違う点を三つ書け。1892年、1904年、2016年の移動記録のうち、写真だけでは証明できないものも分けよ。

照合の手がかり

Smithsonianの作品個票F1903.91a–bと両写真の暖炉上の肖像を照合する。私邸では卓と椅子、美術館では歩行できる床が前景にある。両写真の棚の陶器の置き方も異なる。1892年の絵の売却、1904年の部屋の売却、2016年のSackler展示は一次文書に依拠し、室内写真だけで年表を断定しない。

言える範囲

私邸写真の原撮影日・撮影者、当時の正確な照度・家具の通常配置は未確定。1921年刊の別カットはPrince’s Gateの原位置で撮影したと図版目録が明記するが、掲載主図の撮影日を確定させる記録ではない。1904年刊カタログの壁面写真は原撮影場所・日時を特定できず、2011年のFreer展示は1908年私邸の再構成である。2016年Sackler展示の設置実景は未収録。現代の二写真は異なる画角と展示年であり、色や距離の数値比較には使えない。

SOURCE REGISTER

出典・図版

  1. [1] Smithsonian National Museum of Asian Art, The Princess from the Land of Porcelain, F1903.91a–b
    https://asia.si.edu/explore-art-culture/collections/search/edanmdm:fsg_F1903.91a-b/
  2. [2] Smithsonian, Harmony in Blue and Gold: The Peacock Room, F1904.61
    https://www.si.edu/object/fsg_F1904.61
  3. [3] National Museum of Asian Art, The Room Travels
    https://asia.si.edu/explore-art-culture/interactives/peacock-room/the-room-travels/
  4. [4] National Museum of Asian Art, Princess: Unleashed (2016)
    https://asia-archive.si.edu/princess-unleashed/
  5. [5] Smithsonian Libraries, E. R. and J. Pennell, The Whistler Journal (1921), p.100 image / PDF p.195
    https://library.si.edu/digital-library/book/whistlerjourna00penn
  6. [6] Smithsonian Libraries, C. J. Holmes, The Peacock Room, Obach Galleries catalogue (1904)
    https://library.si.edu/digital-library/book/peacockroom00holm
  7. [7] National Museum of Asian Art, The Peacock Room (2011–2019)
    https://asia-archive.si.edu/exhibition/the-peacock-room-comes-to-america/
  8. [8] National Museum of Asian Art, The Peacock Room Comes to America (2022)
    https://asia-archive.si.edu/exhibition/the-peacock-room-comes-to-america-2022/
  9. [9] 撮影者未詳/Linda Merrill, The Peacock Room (1998) 再録
    https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Peacock_Room_1890.jpg
  10. [10] Votpuske
    https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Peacock_Room_at_Freer_Gallery_of_Art_-_Panorama.jpg
  11. [11] James McNeill Whistler/Freer Gallery of Art
    https://commons.wikimedia.org/wiki/File:James_McNeill_Whistler_-_La_Princesse_du_pays_de_la_porcelaine_-_Google_Art_Project.jpg
  12. [12] C. J. Holmes/Obach & Co.(刊行、撮影者未詳)
    https://commons.wikimedia.org/wiki/File:The_Peacock_Room_painted_for_Mr._F.R._Leyland_by_James_McNeill_Whistler,_removed_in_its_entirety_from_the_late_owner%27s_residence_%26_exhibited_at_Messrs._Obach%27s_Galleries_at_168_(IA_peacockroompaint00holm).pdf
  13. [13] Freer Gallery of Art/Arthur M. Sackler Gallery(撮影: Neil Greentree)
    https://commons.wikimedia.org/wiki/File:The_Peacock_Room.jpg
  14. [14] Votpuske
    https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Peacock_Room_at_Freer_Gallery_of_Art_02.jpg