Space & Art / 空間とアート
VOLUME 01 / PART IV / CHAPTER 37

なぜデ・ステイルは、部屋を固定した箱として扱わなかったか

色面、窓、可動壁を住む人の動きとともに見る。抽象画を三次元に置いたという一方向の説明を避ける。

オランダ・ユトレヒト/Rietveld Schröder House、1924年実物・記録を見比べる出典 7 件
Rietveld Schröder House外観
Andreas 2309 / Wikimedia Commons · Rietveld Schröder House:1924年/撮影:2011年 · CC BY-SA 3.0 図版情報
Andreas 2309 / Wikimedia Commons · 元資料
37 / 01

外観の面をそのまま室内へ持ち込まない

Gerrit RietveldとTruus Schröder-Schräderが1924年に形にした家は、外から見ると白と灰の面、黒い線、原色の細部が互いにずれて重なる。しかし外観の見え方だけで室内の使い方は分からない。保存機関が公開する室内記録では、上階は可動の間仕切りによって一つの連続空間にも、複数の個室にもなる。色の線は絵画の構図を模倣した飾りというより、柱、手すり、家具、動く壁の境目を知覚させる。建物をぐるりと見る写真と上階の写真を往復し、面の関係が身体の移動で変わることを確かめる。[1][2]

可動壁が閉じるとき、色面の配置だけでなく、誰から誰が見えるかが変わる。開いた写真を見て広く感じることと、実際に閉じた状態を観察することは別である。現況の保存展示では壁の操作が制限される可能性もある。[1][2]

37 / 02

2017年模式平面は操作を問う入口

掲載した2017年作成の模式平面は、上階の仕切りが開いた場合と閉じた場合を図として対置する。これは1924年にRietveldが提出した原図ではない。写真の広い上階を見ると、どの線が固定壁でどれが動くかは一枚だけでは分からない。説明平面の可動線を手掛かりに、保存機関が公開する動画で実際の開閉を確かめる。資料が異なる時点に属することを明示すれば、開放した状態の写真二枚を偽の前後比較として使わずに済む。[1]

37 / 03

可動壁は誰の一日を受けるか

上階の間仕切りを開くと家族が集まる場になり、閉じると個々の居場所に分かれる。これは固定された一枚の平面が二つの状態を持つという具体的な設計である。写真には開いた状態が写っていても、壁の動きや閉じたときの音、家族がいつ開閉したかまでは映らない。保存機関の動画と平面を合わせ、壁がどこで止まり、家具と干渉しないかを確かめる必要がある。現在の見学のために整えられた配置を、1924年の生活写真の代わりにしない。Truus Schröderの住まい方と設計への関与を、Rietveld一人の形式実験として消さない。[1]

同一対象同住宅・室内Rietveld Schröder House:1924年/撮影:2022年2022年の現況写真。開閉状態の解釈は保存機関の動画と照合。Olivermal / Wikimedia Commons · CC BY-SA 4.0 · 元資料[4]
図面・記録Rietveld Schröder House・可変平面模式図建物:1924年/説明図:2017年2017年作成の説明図。上階の仕切り開閉で位置関係が変わることを現況写真と照合する。1924年の原図ではない。Jchancerel / Wikimedia Commons · CC BY-SA 4.0 · 元資料[5]

保存機関の説明で上階の可動間仕切りを確認してから写真を見る。単なる「開放的な平面」ではなく、家族が共に過ごす状態と個人の室を分ける状態を選べる点が要である。室内二枚は2022年の別角度であり、閉じる前と後の連続写真ではない。色の線が室の境界を強調する箇所と、壁が動いたときに境界が変わる箇所を分ける。ここへ保存機関の動画を加えると、一枚の静止画では見えない可変性が初めて分かる。可動壁の経路と閉じたときの室の輪郭は、保存機関の動画と平面で確かめる。[1]

37 / 04

Truus Schröder-Schräderの要求を設計から消さない

家はRietveldの造形実験であると同時に、Truus Schröder-Schräderと子どもたちの暮らしの場である。上階を一室にまとめたり個室へ分けたりできることは、抽象的な白・黒・原色の遊びではなく、家族の居場所を使い分ける要請に結び付く。誰がいつ壁を閉じたか、開閉の音や手間、冬の環境がどうだったかは現在の内観と模式図では分からない。保存機関の歴史資料と居住者の記録を別に読む必要がある。設計者の名前だけで家族の判断を代表させない。[1]

同一対象同住宅・上階Rietveld Schröder House:1924年/撮影:2022年可動壁のある階の現況。異なる撮影位置を改修前後としない。Olivermal / Wikimedia Commons · CC BY-SA 4.0 · 元資料[6]
37 / 05

抽象絵画との関係を一方向にしない

デ・ステイルの色と幾何が建築の見え方を説明する助けになるのは確かだが、家の可変性は抽象画を立体化しただけでは生まれない。小さな敷地、家族の暮らし、個室と共同の場の要求、1920年代の材料・建具の技術が関わる。色面が似るだけで画家の作品が直接の設計図だったとは言えない。外観を固定した図像として眺めるだけでなく、玄関から階段、上階へ進んだ時に視野がどう開閉するかを問う。原設計の図面と現況、保存修理の履歴は同じ時間の資料ではない。[1][2]

外観の水平・垂直と色を見てから上階へ移ると、写真だけでは動く壁の意味がむしろ見えにくいことに気づく。開放された一室は一つの固定された間取りにも見える。公式の動画と平面を見れば、壁が開いた状態、閉じた状態を行き来する仕組みを確認できる。現在の二枚の内観を「前後」と誤認させず、撮影方向の差として表示することが重要である。1987年の外観写真も、1924年の創建時資料ではなく後世の保存状態を示す。色の抽象性と生活の可変性が両立したという説明は、図版のどこに動く部材があるかを指せて初めて成り立つ。[1][2]

37 / 06

現在の保存された家から言える範囲

Rietveld Schröder Houseは現在、保存・公開される文化遺産であり、見学者の動きや撮影条件は当時の家族と異なる。写真で示せるのは開口の位置、色面、現在の家具と壁の状態。可動間仕切りが日常のどの時間に動いたか、室温や音への影響、家族ごとの使い方は一次証言と技術記録が要る。二枚の内観が似て見えても撮影位置が違えば壁の開閉を証明しない。図版のラベルに「上階・現在」「外観・現在」を明示し、保存機関の動画へ誘導する。固定した箱を疑うことは、生活の選択肢がどこまで設計に織り込まれたかを具体的に調べることになる。[1][2]

同一対象1987年の外観写真Rietveld Schröder House:1924年/撮影:1987年2022年内観とは撮影時期が異なる。原設計時の姿ではない。Bart Molendijk / Anefo / Wikimedia Commons · CC0 · 元資料[7]

この住宅はRietveldの造形実験であると同時に、Truus Schröder-Schräderと子どもたちの暮らしの場だった。設計者名一つで可動壁の原因を説明せず、住まう人が空間を切り替える要求を見に行く。外観の色面を絵画と比べるのは有益だが、壁を動かすと生じる視線、音、プライバシーは平面の抽象構成だけでは分からない。現在の保存された家は来訪者が歩く文化財であり、1924年の日常を再演する室ではない。見学用の設置や修理を経た部位の扱いは個別の保存記録を要する。現存性が高い建物ほど、現在の写真を無時間の原本として扱わない。[1][2]

37 / 07

見学の家と暮らす家は異なる

1987年の外観写真と近年の室内写真を並べても、1924年の家族の一日を撮影した連続写真にはならない。保存された家は見学のための管理・修復・撮影規則を持ち、開閉できる建具でも来訪者が任意に動かせるとは限らない。抽象画を建築に拡張した、という説明だけなら色面は読めるが、動く壁によって変わる音、視線、家具の置き場は見落とす。平面で機構、写真で材料と位置、保存機関の動画で操作を分けて確かめる。色の似た別作品から直接の設計因果を推定しない。[1]

模式平面の開いた状態と閉じた状態を見比べる際、変わるのは『広く感じるか』だけではない。個室の境界、階段からの見通し、家具を置ける壁面も変わる。模式図は操作位置の説明には便利だが、建具の重さ、遮音、開閉の時間は測れない。保存機関の動画を用いるなら、どの壁がどの方向へ動くかを止めて確認し、現在の操作映像を1924年の家族の習慣に置き換えない。外観の白い面と色線を見た後、上階の間仕切りの動きへ戻ると、色彩と可変な室の関係を追える。[1]

保存機関が公開する動画では壁を動かす順序が見られる。平面模式図では開・閉の最終状態は把握できても、人がどこに立って操作し、家具をどう避けるかまでは実測できない。上階写真で見える色線を模式図の壁の線へ対応させる時も、撮影方向を示してから比べる。現在の公開展示は当時の生活の再演ではない。[1]

READING PRACTICE

一枚に戻って考える

上階の二枚の写真だけで壁が開閉した前後を証明できるか。何を追加して確かめるか。

照合の手がかり

できない。撮影位置の差があるため、同じ位置での開閉記録、保存機関の動画と平面を照合する。

言える範囲

可動壁の開閉前後を同視点で見る写真はここにはない。模式平面と保存機関の動画から動きの経路を確認し、2022年の別角度の室内写真を開閉前後と取り違えない。

SOURCE REGISTER

出典・図版

  1. [1] Rietveld Schröder House, official site
    https://www.rietveldschroderhuis.nl/en
  2. [2] UNESCO, Rietveld Schröder House
    https://whc.unesco.org/en/list/965/
  3. [3] Andreas 2309 / Wikimedia Commons
    https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Rietveld_schr%C3%B6der_house.jpg
  4. [4] Olivermal / Wikimedia Commons
    https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Rietveld_Schroeder_Huis_Utrecht_Interior.jpg
  5. [5] Jchancerel / Wikimedia Commons
    https://commons.wikimedia.org/wiki/File:RietveldSchroderPlans.png
  6. [6] Olivermal / Wikimedia Commons
    https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Rietveld_Schroeder_Huis_Utrecht_Upper_Interior.jpg
  7. [7] Bart Molendijk / Anefo / Wikimedia Commons
    https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Exterieur_Rietveld_Schroderhuis_in_Utrecht%2C_Bestanddeelnr_933-9354.jpg