Space & Art / 空間とアート
VOLUME 01 / PART III / CHAPTER 35

なぜアール・デコは都市の娯楽・住まい・家具をまたいで広がったか

1925年パリ博覧会だけを起点にしない。港湾都市の拡張、映画館の娯楽、海沿いの住宅、材料と図柄を別々の条件から読む。

インド・ムンバイの映画館・住宅/20世紀前半;欧州の室内資料は別地域の対照実物・記録を見比べる出典 9 件
ムンバイ・Regal Cinema外観
DesiBoy101 / Wikimedia Commons · ムンバイの建物:20世紀前半/撮影:2023年 · CC BY-SA 4.0 図版情報
DesiBoy101 / Wikimedia Commons · 元資料
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都市の中に並ぶ建物を見る

UNESCOはムンバイのOval Maidan周辺に、19世紀のヴィクトリア朝ゴシック公共建築と20世紀のアール・デコ建築が向かい合い、さらに海岸沿いの住宅・商業・娯楽施設が都市拡張と結んだことを記す。個々の映画館や住宅のファサードを切り出す前に、通り、敷地、海からの距離を見る。アール・デコは展覧会で決まった一つの模様が輸入されたのではなく、ムンバイの交易、都市計画、建築家と職人、生活の要求で別の姿になった。今日の建物写真は現役の都市の一時点で、建設当時の看板や客席をすべて保存しない。[1]

映画館の入口で見る案内文字と、住宅の階段で見る番号や手すりは、同じ幾何学でも異なる行動を導く。現況写真に残る看板が創建時のものかは別途確認する。様式名で年代の違う改装を一括しない。[1]

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映画館の文字は街からの入口

RegalとErosの外観で見る縦の文字や曲がる面は、幾何学模様としてだけでなく、歩行者へ映画館の位置を知らせる。Erosの室内写真では壁・床・階段を進むと上映空間へ向かう変化が想像できるが、外観だけのRegalとErosの室内を同一建物の前後として継がない。UNESCOの登録説明が扱うのは個別建物だけでなくOval Maidan周辺とMarine Driveの都市の配置である。様式名を街路の連続と土地利用の違いへ戻す。[1]

別個体・対照ムンバイ・Eros Cinema外観ムンバイの建物:20世紀前半/撮影:2024年Regalとは別の映画館。Harshil s mehta / Wikimedia Commons · CC BY 4.0 · 元資料[4]
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映画館は入る前から期待を作る

RegalやErosの映画館外観では、縦の文字、平滑な壁面、曲線を含む入口の面が、街路の歩行者へ娯楽の場所を知らせる。室内写真のErosでは照明と階段・床・壁の細部が、入場から上映へ進む時間をつくる。外観の「幾何学模様」を家具の装飾と同一視するのでなく、人が集まり、切符を持ち、暗い室へ移る行動に結びつける。映画館の収容人数、料金、性別や階層による利用の差はこの写真からは分からない。映画館の個別年表と保存記録へ戻す。[1]

同一対象Eros Cinemaの室内ムンバイの建物:20世紀前半/撮影:2024年同じEros建物の内部。Regalの内部としない。DesiBoy101 / Wikimedia Commons · CC BY 4.0 · 元資料[5]

ムンバイのUNESCO記録では、Oval Maidanを挟んで19世紀のヴィクトリア朝ゴシックと20世紀のアール・デコの建物群が向かい合う。両者の配置は、都市が二度の大きな拡張を経験した履歴を可視化する。Regal Cinemaの入口は娯楽への招きとして街路で働き、Eros Cinemaの室内では照明と床・壁の材料が、街から上映へ進む時間を刻む。一方、Marine Driveの住宅列は、連続する窓とバルコニーが住む時間を受け止める。三種の図版を、模様の似た画像集としてではなく、使う人の一日の違いに沿って比較する。[1]

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欧州の家具は別地域の並行例

フランスの椅子・衝立の写真とJoseph Bernard邸由来の展示を、ムンバイの映画館や住宅とは別個体として追加する。家具では表面の光沢や曲線が身体の近くで働く。映画館では同様に見える形が入口の看板、照明、階段の縁で働く。見かけの共通性は比較の出発点であり、家具がインドへ輸入されたこと、同じ作家が建物を設計したことを示さない。V&Aの室内資料とUNESCOのムンバイ記録は資料の尺度も異なる。制作メンバーは、共通形態を一つ指したら、用途が違うため起こる形の変化も一つ指す。[2][1]

別個体・対照パリの椅子と衝立家具:1912年と1920年/写真:2016年欧州の別個体の家具・衝立。ムンバイの映画館に置かれた家具ではない。SiefkinDR / Wikimedia Commons · CC BY-SA 4.0 · 元資料[6]
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住宅は別の一日を受け止める

Marine Driveのアール・デコ住宅群は、映画館とは異なる生活時間を持つ。海沿いの連続したファサードとバルコニー、曲がる角、窓は、街路の見せ方と室内の採光・通風を一緒に考える入口になる。ただしファサード写真だけから各室の平面や居住者の家事を断定しない。UNESCOはムンバイの様式をインドの意匠とアール・デコが交わる「Indo-Deco」と記すが、この言葉で全建物の装飾を同一にしない。Erosの映画館、Regalの外観、Marine Driveの住宅を異なる用途として並べる。[1]

別個体・対照Marine Driveの住宅列ムンバイの建物:20世紀前半/撮影:2023年映画館とは別用途の建物群。現在の海沿いの都市景観。DesiBoy101 / Wikimedia Commons · CC BY-SA 4.0 · 元資料[7]
別個体・対照Chateau Marine外観ムンバイの建物:20世紀前半/撮影:2023年住宅の個別建物。内部平面はこの写真から分からない。DesiBoy101 / Wikimedia Commons · CC BY-SA 4.0 · 元資料[8]

Eros Cinemaの室内と外観は同じ建物として結べるが、Regal Cinemaの外観は別建物である。二つの映画館を一つの内外ペアにしない。Marine Driveの住宅列では、映画館の文字看板とは違い、反復する住戸とバルコニーが街の表情になる。UNESCOの記述を読むと、これらは新しい海岸線を含む都市拡張に属し、装飾の選択も都市計画から独立していない。Erosの階段や床を見て映画を見るまでの経路を考えられるが、特定の観客がどう歩いたかは写真だけで分からない。映画館の興行史と住居の生活史を別に補って初めて様式の広がりが見える。[1]

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欧州の家具は別の場所の並行例

V&Aの室内資料には欧州のアール・デコ家具・材料の例がある。そこからムンバイの映画館に同じ家具が置かれたとは言えない。両地域の図版を比べるなら、光沢、幾何学、工業材料、手仕事の仕上げが、それぞれの商業・住宅・娯楽でどう使われたかを問う。植民地の交易関係や素材の出所を、見た目だけの「エキゾチックな影響」に還元しない。作品の流通を論じるなら具体的な輸入・施工・発注資料を要する。似た形が同じ原因を意味しないことは、複数地域を比較する際の重要な条件である。[1][2]

別個体・対照Joseph Bernard邸由来の室内展示室内・家具:1920年代/写真:2011年フランスの別住宅由来の室内展示。欧州の装飾と家具の対照であり、ムンバイの住宅室内ではない。Jean-Pierre Dalbéra from Paris, France / Wikimedia Commons · CC BY 2.0 · 元資料[9]

V&Aの欧州の家具資料は、仕上げや幾何を対照するには有効でも、ムンバイの映画館に同じ家具が運ばれたことの証拠にはならない。UNESCOが用いるIndo-Decoという語は、インドの建築家や職人の判断と都市の条件を考える入口であり、欧州型を受け取っただけの地域版という意味ではない。写真で共通に見える曲線や垂直線について、どの建物のどの用途に効くかを一箇所ずつ指す。映画館の料金と観客層、住宅の平面と居住者の声、建設資材の流通は写真の外にある。ここを未詳として残す方が、世界的な様式名を現地の歴史より上に置かない。[1][2]

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Indo-Decoを受動的な地域版にしない

UNESCOはムンバイのアール・デコ建築をインドの条件の中で成立したIndo-Decoとして説明する。これは欧州の完成した家具や図案がそのまま建築へ輸送されたという意味ではない。都市拡張、海沿いの敷地、映画という商業、住宅の採光・通風、現地の建築家と職人の判断を並べて初めて文脈が見える。欧州の室内写真を並置するときほど、実際の図案の移動や発注を示す資料なしに影響関係を描かない。現況写真に見える塗色や看板も後の改修かもしれず、建設当時の色指定は保存記録で別に調べる。[1][2]

パリの椅子・衝立は写真一枚の中で別年代の物として展示され、Joseph Bernard邸由来の室内はまた別のフランスの事例である。ムンバイのErosの室内との対照では、曲線や光沢だけでなく、家具が身体のすぐ近くにあること、映画館の階段と看板は大勢の移動を導くことを示す。欧州の工房からインドの都市へ同じ物が運ばれた証拠はこの図版群にはない。建築は都市の法規・敷地・興行、家具は製作所と依頼主の履歴をそれぞれ追ってから影響を語る。[1][2]

Joseph Bernard邸由来の展示写真は、家具が壁や開口とどう近接するかを見せるが、ムンバイの映画館の室内ではない。パリの椅子と衝立の写真も同じ室内の家具目録ではなく、別個体の対照である。欧州の家具の近距離の身体経験と、ムンバイの映画館が多数の来客を迎える都市的な縮尺を保ったまま、幾何と光沢の仕事を比較する。[1][2]

READING PRACTICE

一枚に戻って考える

Regalの外観、Erosの内観、Marine Driveの住宅列から、共通する形と異なる用途をそれぞれ一つ挙げる。

照合の手がかり

直線・曲線や反復する開口は比較できる。映画館は街から上映室へ誘導し、住宅は居住の日常を受ける。形の共通だけで同じ設計者や平面とは言えない。

言える範囲

V&Aの室内資料は原典で別地域の対照として確認できるが、ここにある写真だけではその室内との形の違いを検討できない。映画館・住宅の内部使用記録も必要となる。

SOURCE REGISTER

出典・図版

  1. [1] UNESCO, Victorian Gothic and Art Deco Ensembles of Mumbai
    https://whc.unesco.org/en/list/1480/
  2. [2] V&A, Art Deco in the home
    https://www.vam.ac.uk/articles/art-deco-in-the-home
  3. [3] DesiBoy101 / Wikimedia Commons
    https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Front_view_of_Regal_Cinema%2C_Colaba%2C_Mumbai.jpg
  4. [4] Harshil s mehta / Wikimedia Commons
    https://commons.wikimedia.org/wiki/File:The_Eros_Cinema%2C_Churchgate%2C_Mumbai.jpg
  5. [5] DesiBoy101 / Wikimedia Commons
    https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Beautiful_Art_Deco_interiors_on_the_ground_floor_of_Eros_Cinema.jpg
  6. [6] SiefkinDR / Wikimedia Commons
    https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Art_Deco_chair_and_screen_(1912_and_1920).jpg
  7. [7] DesiBoy101 / Wikimedia Commons
    https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Seksaria_%28left%29_and_other_Art_Deco_buildings_at_Marine_Drive%2C_Mumbai.jpg
  8. [8] DesiBoy101 / Wikimedia Commons
    https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Chateau_Marine%2C_Marine_Drive%2C_Mumbai.jpg
  9. [9] Jean-Pierre Dalbéra from Paris, France / Wikimedia Commons
    https://commons.wikimedia.org/wiki/File:La_maison_de_Joseph_Bernard_(mus%C3%A9e_des_ann%C3%A9es_30,_Boulogne-Billancourt)_(5317272729).jpg