Space & Art / 空間とアート
VOLUME 01 / PART III / CHAPTER 27

なぜ鉄とガラスは、駅と博覧会に大きな屋内を作れたか

反復する部材、輸送、組み立て、支持の仕組みが大空間を可能にした。ただし博覧会と駅では、建物に入る人も物も時間も異なる。

ロンドン・1851年博覧会のCrystal Palaceと1860年代のSt Pancras駅実物・記録を見比べる出典 9 件
Crystal Palace・当時の内観図
J. McNeven / Wikimedia Commons · Crystal Palace:1851年/印刷図版:1851年頃(撮影ではない) · Public domain 図版情報
J. McNeven / Wikimedia Commons · 元資料
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博覧会の図版を記録の種類から読む

Science Museum Groupが所蔵する1851年のCrystal Palace図版は、ガラス面の連続する大きな建物を同時代の人にどう見せたかを伝える。透視図は実景写真と異なり、視点を選び、混雑や材の細部を省略する可能性がある。内部を描いた版画では、柱間の反復と出品物、人の歩く幅が一画面に入る。見える透明感だけで建設の容易さを語らず、鋳鉄・錬鉄、ガラス、規格化した枠、部材の運搬と現地組立の資料へ戻る。設計と施工を同じ労働とせず、万博で誰がどこまで入れたかは入場制度の史料に照らす。[1]

「大きい屋内」の効果は構造と運営が同時に成立して初めて現れる。展覧会では展示品と来場者、駅では列車と乗客が空間の向きを決める。両図版の人物の縮尺をそのまま寸法測定の物差しにはしない。[1]

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1851年の平面は反復と歩行を示す

Crystal Palaceの同時代平面には、反復する区画と主要な横断経路が描かれる。内観の透視図は広さと賑わいを劇的に見せるが、どこを通ってどこへ出るかは平面で確かめる方がよい。1851年の断面図には屋根の高さと支持の並びが見える。ガラス面が広いという印象だけでなく、鉄の架構がどの間隔で繰り返されるかを読む。平面も断面も刊行の目的で簡略化され得るので、部材の重量や施工日数は図から逆算しない。Science Museum Groupの同時代図像を、実測値の一次台帳と区別する。[1]

同一対象Crystal Palace・開会場面Crystal Palace:1851年/印刷図版:1851年頃(撮影ではない)当時の出来事を描く表象。全来場者の経験ではない。Louis Haghe / Wikimedia Commons · Public domain · 元資料[5]
図面・記録Crystal Palace・平面建物:1851年/図版制作年未確認同時代の平面図。反復する区画と横断する歩行軸を内観図と照合する。Wikimedia Commons / Wikimedia Commons · Public domain · 元資料[6]
図面・記録Crystal Palace・1851年の断面図Crystal Palace:1851年/印刷図版:1851年頃(撮影ではない)1851年刊の断面。外観のガラス面だけでなく屋根の高さと支持の配置を読む。Peter Berlyn, and Charles Fowler, Jnr. Engravings by George Measom (1818-1901). / Wikimedia Commons · Public domain · 元資料[7]
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鉄骨の大屋根が駅で受けた要求

Historic EnglandのSt Pancras指定記録は、駅の大屋根とホテルを含む建築的価値を特定する。屋根の断面では大スパンを掛ける骨組み、写真では列車、プラットフォーム、乗客の流れを同時に見る。National Railway Museumの建設写真には工事中の屋根の姿が残り、現況写真とは異なる段階の支持と足場が分かる。完成写真だけではどの部材を地上で作り、どう上げたかは分からない。駅の列車の煙、照明、風雨への対応を、博覧会の展示空間と同じ使用条件にしない。[2][3]

別個体・対照St Pancras・屋根の建設中Crystal Palace:1851年/St Pancras:1860年代/撮影:1868年1868年工事写真。完成時の利用風景と分ける。Illustrated London News / Wikimedia Commons · Public domain · 元資料[8]

Crystal Palaceの当時の絵は、ガラスの反復が果てしなく続くような印象を作る。実際の建物を理解するには、同じ部材を工場で準備し、敷地で組むという順番、柱と梁・ガラスの接点、会期後の扱いを別資料で確かめる。開会式の絵に見える人々は、来場者全体の縮図ではない。入場料や開催日ごとの入場制度を見ないまま、すべての人に同じように開かれた透明な空間と呼ぶことはできない。印刷物は「見せたい大きさ」を強くする可能性があるため、平面・部材表と実景記録を並べて読む。技術が可能にした大きさと、万博が求めた大きさの二つの条件を区別する。[2][3]

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博覧会と鉄道駅の役割を交換しない

博覧会の建物は一定期間に多くの物と人を展示するための大空間であり、St Pancrasは列車・荷・乗客の出入りを支える駅である。どちらも大きな屋根を必要としたが、床で必要な空き方は同じではない。Historic Englandの指定記録はSt Pancrasの屋根と駅を歴史的な構造として記述し、National Railway Museumの施工写真は建設途中の支持と作業の状態を示す。現在の駅内観から工事の順序や働く人の危険を復元しない。二事例を技術が一方向に進歩した年表へ並べず、用途が構造の選択に何を求めたかを比べる。[2][3]

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反復と変化を区別する

部材を繰り返すと建物の奥行きを延ばしやすくなる。しかし「プレハブだから形が必然的に透明になった」わけではない。柱のピッチ、屋根の高さ、ガラスの割合は、展示や鉄道の運行、敷地、資金、見せたい都市像に応じて選ばれた。Crystal Palaceは1851年の博覧会建築、St Pancrasは鉄道駅で、同じ世紀の鉄・ガラスの大屋内だが、互いが同じ施工法だったと一枚の比較図からは言えない。透視図、建設写真、現況写真を別ラベルで並べると、何が計画、何が工程、何が後世に残る形かを考えられる。[1][2][3]

鉄とガラスの写真は、明るく広い空間を作れることを直感させる。しかし列車のための屋根と展示品のための屋根では、床の荷重、煙や蒸気、通行の方向、会期の長さが違う。St Pancrasの工事中写真には完成後には見えない足場が写り、材料を大きく組み上げる労働を示す。Crystal Palaceの当時の版画には構想を伝えるための誇張や理想化が入りうる。写真と版画を同じ「当時の実景」として扱わない。構造の優劣を比較するなら断面、材の種類、接合、修理の履歴が要る。ここでは二つの大屋内を、同じ材料が別用途の要求を受けた事例として読む。[1][2][3]

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素材の神話にしない

鉄とガラスは大きな屋内を作る有力な手段となった一方、採光、熱、清掃、破損、入場管理の問題も伴う。19世紀の図版が明るく見えることから室内の実測照度を作らない。建物の建設費、工期、事故、労働の分担は一次記録がなければ数字を載せない。駅と博覧会を比べる到達点は、同じ材料から別の空間と行動の型が組み上がることを言葉にすること。透視図の理想化、工事写真の一時性、現在の改修を三つの時点として保つ。[1][2][3]

別個体・対照St Pancras・現在の大屋根Crystal Palace:1851年/St Pancras:1860年代/撮影:2010年改修を経た現況。博覧会場と同一建物ではない。Rept0n1x / Wikimedia Commons · CC BY-SA 3.0 · 元資料[9]

St Pancrasの1868年の工事写真は、屋根が完成形になる前に仮設の支持や作業場所があることを示す。現況の大屋根と並べると、現在の美しさに隠れた組立過程が戻る。Historic Englandの指定記録は駅とホテルを含む価値を評価する文書で、労働の全工程を記す建設日誌ではない。National Railway Museumの写真も、一瞬の工事段階を切り取る。列車の動線、屋根下に煙が溜まる条件、照明やガラスの清掃を論じるなら、鉄道会社の運用記録が要る。Crystal PalaceとSt Pancrasの図版を同じ「鉄とガラス」の見出しへ置きつつ、前者は一時的な展示、後者は継続運行する交通施設だった差を忘れない。[1][2][3]

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写真から消えた部材を検査する

Crystal Palaceの1851年の初期建物は現存しない。図版として見るのは当時の印刷物であり、今日の現物の写真ではない。他方、St Pancrasには建設途中の写真と現況写真がある。時間の違う証拠を揃えたように見せるために、Crystal Palaceの図を写真と呼んだり、St Pancrasの現在の屋根を1860年代そのものと呼んだりしない。運ばれたガラス板や鉄材の規格、組立順序を厳密に比べるなら部材表・工事記録が要る。図版からは反復する単位と支えの位置を指し、数字のない箇所は未詳と残す。[1][2]

平面と断面を見た後で内観の透視図へ戻ると、見学者の群れで隠れた柱の反復が読める。博覧会は商品を展示する建物であると同時に、移動する大人数を受ける装置だった。しかし図中の群衆の密度は作図者の表現で、入場者数の計測ではない。St Pancrasの施工写真には屋根が完成する前の支えや作業が写り、現況写真にはなくなった仮設物がある。二時点の差は鉄とガラスの美観だけでなく、誰がどの順に建てたかを問う入口になる。[1][2]

READING PRACTICE

一枚に戻って考える

Crystal Palaceの版画とSt Pancrasの工事写真は、何を証拠として示す種類が違うか。

照合の手がかり

版画は当時の見せ方・構想を、工事写真は特定時点の施工状態を示す。いずれも完成後の全使用経験ではない。

言える範囲

Crystal Palaceの内観図は実測写真でなく当時の表象。St Pancras現況は改修後であり、建設当時の全材料を示さない。

SOURCE REGISTER

出典・図版

  1. [1] Science Museum Group, Crystal Palace print
    https://collection.sciencemuseumgroup.org.uk/objects/co8014684/an-authentic-view-of-the-the-great-industrial-exhibition-palace-of-1851
  2. [2] Historic England, St Pancras listing
    https://historicengland.org.uk/listing/the-list/list-entry/1342037
  3. [3] National Railway Museum, construction photography
    https://blog.railwaymuseum.org.uk/capturing-railway-construction/
  4. [4] J. McNeven / Wikimedia Commons
    https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Crystal_Palace_-_interior.jpg
  5. [5] Louis Haghe / Wikimedia Commons
    https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Crystal_Palace_-_Queen_Victoria_opens_the_Great_Exhibition.jpg
  6. [6] Wikimedia Commons / Wikimedia Commons
    https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Crystal_Palace_-_plan.jpg
  7. [7] Peter Berlyn, and Charles Fowler, Jnr. Engravings by George Measom (1818-1901). / Wikimedia Commons
    https://commons.wikimedia.org/wiki/File:The_Crystal_Palace_page_a1.jpg
  8. [8] Illustrated London News / Wikimedia Commons
    https://commons.wikimedia.org/wiki/File:St_Pancras_station_train_shed_under_construction_in_1868_%28cropped%29.jpg
  9. [9] Rept0n1x / Wikimedia Commons
    https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Barlow_train_shed%2C_St_Pancras_railway_station_-_DSC08182.JPG